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『……ええ。その話は透視室で話すわ。見て貰いたい映像があるから。
ああ、そうだ。そう言えば、ナースもあなたを探してたわよ。欲しい指示があるんだって。私は透視室で待ってるから、先にそっちを聞いてあげて』
『分かった。後で行く』「――麻弥、気をつけて帰れよ。今夜は早く帰るから」
彼はステラから私に視線を移して、口もとを緩めた。
「うん。…あっ、これ!咲菜ちゃんと作ったお弁当!これを渡そうと思って来たんだった!」
すっかりお弁当の存在を忘れていた私。
覗き見をしてる最中に柱の片隅に置いた紙袋を拾い上げ、慌てて彼に差し出した。
「何だ。俺の監視に来ただけじゃないんだ」
「違います!お弁当が本来の目的であって、覗きは湧き起こる衝動に負けただけなの!」
「何だそれ。威張って言う事かぁ?
まぁ、いいや。とにかく俺は仕事に戻る。これ、サンキューな」
愛妻弁当の入った袋を持ち上げ「ありがとう」のサインで微笑むと、彼は絵本を読む咲菜ちゃんの方へと歩き出した。
きっと、咲菜ちゃんにもお弁当のお礼を言っているのだろう。彼はお弁当の入った袋を指さした後、少女の頭を撫でている。
ここから離れていてはっきりとは見えないが、咲菜ちゃんと彼の笑顔の花が心に映像となって映し出される。
その微笑ましい光景に吸い寄せられるかのように、彼を追って足先をそちらに向けたその時――――
「I didn’t expect that his wife is a woman like you.
(彼の奥さんが、あなたみたいな女性だとは思わなかった) 」
煙草の吸殻をポイと捨てるような、素っ気ない声色が耳を掠めて行った。
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