高嶺の恋と安値の愛 : 番外編

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―――午後6時。 ナースステーション内では日勤スタッフが黙々と電子カルテと向かい合い、廊下では、夜勤スタッフが夕食の配膳をしながら慌ただしく動き回っている。 申し送りを終えやっと椅子に腰を下ろした私は、カタカタとパソコンのキーを打ち鳴らして深い息を吐いた。 「香川さん、どうかした?そんな大きなため息をついて」 突然と耳に入り込んだ声。 驚いた私は指の動きを止め、目をパチクリして右隣りに視線を向けた。 笑みを浮かべて私の顔を覗き込むのは、循環器内科医の柴田先生。私と同じくバツイチで、妻と子供に置き去りにされた淋しい中年男だ。 「今日は入院も検査も多かったので疲れてしまって。今からこれだけの記録を書くと思ったら、更に疲労困憊だな~って。…私、そんなに大きなため息をついてました?」 ボールペンで走り書きした受け持ち患者表に手のひらを置いたまま、私は眉根を寄せて苦笑いを落とす。 「ああ、大きなため息だったよ。吐いた息で、キーボードの隙間に入り込んだ埃が舞い上がってたからね」 「ええっ!?……ヤダ先生!嘘ばっかり!」 「ははっ!それは冗談だけどね。――ねえ。もし迷惑じゃ無ければ、今週末に食事に行かない?」 先生は急に声のトーンを落とし、周囲に目を配りながらそっと耳打ちした。 ―――んん? これってもしかして…… デートの御誘い?
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