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「いいえ。相談に乗ってただけですよ。僕の姉が不妊治療していたので。外で会うときは3人でした。でも旦那さんがそれを理由に離婚すると言うのなら僕は――…」
「不妊……?」
福井が俺に言った。
「えー! 凛子さん不妊だったんですか? 」
「え? いや……そんなことはないと……」
「……あれ? 旦那さん知らなかったんですか? じゃあなぜ離婚を?」
不思議そうに言う花井に福井が俺を指差して言った。
「離婚したがってるのは凛子さんっス。こっちは離婚したくなくてあらがってるとこ」
花井の顔がサッと青ざめた。そして言いにくそうに言った。
「……それは……さっきはすみませんでした。僕と凛子さんは本当に何もないですから。ただ僕が一方的に好意をいだいていただけで」
(好意……)
浮気より一億倍マシだがそれはそれでおもしろくない。
花井が小さな声で続けた。
「でも旦那さんのお義母さん大丈夫ですか? 孫が楽しみってずっと凛子さんに言ってて結構プレッシャーになってたみたいでしたよ……」
『だから孫だってまだ――…』
電話の時の母さんのセリフを思い出した。母さんは良くも悪くもストレートな性格だから、ド直球に凛子に言っていただろう。
花井が言った。
「そういえば凛子さんから昨日の夕方くらいに電話がありました」
昨日の夕方といえば離婚届けを残して失踪する前だ!
「凛子はなんて言ってました!?」
前のめりで聞いた。花井が記憶を辿りながら答える。
「うーんと……旦那さんが子供を楽しみにしてるみたいだから申しわけない……だったかな」
「え? そんなこと言った覚えがない」
子供はあまり好きではないし、いてもいなくてもどっちでもいい。
「ええ? でも旦那さんの前の会社の後輩の人がそう言ってたって言ってましたよ。何でも少し前に道で偶然会ったとか」
「…………」
俺は自分の真横にいる“前の会社の後輩”を見た。
「福井?」
「え?」
きょとんとした顔の福井が俺を見る。
「それ、お前だろ」
「え? いやそんな……」
福井は手をひらひら振って否定した後
「あ、ああー!!」
目を見開いて大きな声を上げた。
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