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医院を出た後で福井がしどろもどろに言った。
「いやぁ~まさか不妊とか知らなくって……凛子さんに
『先輩子ども楽しみにしてますよ~! もう目に入れてベロっと食べちゃうかも。はっはー。え? 先輩は無類の子ども好きですよ。今頃100個くらい名前考えてんじゃないスか~』
とか言った記憶が……」
俺は福井の耳をぐいっと引っ張った。
「いつ俺がそんなことを言ったんだ!」
「いやぁ~先輩の子供ができたら楽しいだろうな~って。えへ」
「無類の子供好きはお前だろ!」
俺は福井の頭を拳骨でぶった。
――…それから福井に調査会社として凛子を探させた。市内のビジネスホテルやネットカフェ、泊まれそうなところは全てあたらせた。
凛子はすぐに見つかった。少しだけ離れたビジネスホテルに泊まっていたのを外に出たところで捕獲した。
「やだ! 触らないでよ! もう離婚するんだから~!」
ボロボロボロボロと凛子の瞳から涙が溢れていた。
「ごめん。違うんだ! 落ち着いて」
俺は力強く凛子を抱きしめた。
「全部知ってる! でもそれは誤解なんだよ! 死んでも離婚しない!」
「やだやだ!絶対にいや! だってわだじがいだらユキくんにごどもでぎないもんー。おがあざんにもわるいもんー!」
ぐしゃぐしゃに凛子が泣いた。
「凛子……」
「知られたくながっだのに! だっでユキくん優しいがら知ったら離婚してくれないもんー! やだよー! わたしのせいでユキくんの子どもいないのやだよー!」
胸が痛い。
「違う! 凛子……俺が悪いんだよ!」
「何でよ! 私だよー! こっそり病院で診てもらったら病気だって言われた! 仕事辞めてゆっくりしてたのに意味なかった! もう、ほんとにごめんねえ……だから離婚――…」
「ごめん! 俺さ……
凛子に隠しごとしてた!」
「え?」
俺の手を振り払って逃げようとしていた凛子がピタリと止まった。
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