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「俺も……不妊……で病院行ってた。それで凛子に内緒で治療してた。薬もらって隠れて注射してた――…本当にごめん」
書斎の鍵のかかった引き出しには注射器のセットと薬が入れてある。俺が凛子にしていた唯一の隠しごと。凛子は信じられないように目を丸くした。
「……それって私だけじゃなくてユキくんも不妊ってこと?」
声が震えた。
「うん……1年続けてそれでも子供が出来なかったら俺から離婚しようと思ってた」
でも自分で決めたタイムリミットまではあがきたかった。失いたくなかった。だから凛子を探し回った。……自分のエゴで。凛子の顔が悲しげに歪んだ。
「……ッ何でそんな大事なこと言ってくれなかったの? 1人で辛かったでしょ? なんで――…」
「俺も凛子と同じ理由。言えば凛子は離婚しにくいと思ったから……。自分でできるだけやってみて、無理なら理由言わずに身を引こうと思った」
「……ッバカ!」
俺を突き飛ばそうとした凛子を思い切り抱き寄せた。
「でも今回のことで! どれだけ凛子を失いたくないかがわかった!」
髪からいつもと違うシャンプーの匂いがして胸が痛かった。抱きしめただけで、嬉しくて切ない。
こんなに気持ちになれる相手は、後にも先にも凛子しかいない。
駄目だ。俺まで泣けてきた。カッコ悪い。
「あらためて……俺の奥さんでいて下さい」
凛子が涙目で懸命に笑顔を作る。
「ユキくんは治療の余地があるんでしょ? 私は――…」
「2人でいようよ。連休には旅行とか行ったりとか、ペット買ったりしてもいいし。仕事もセーブするから……」
俺の腕の中で凛子が小さな声で言った。
「旅行……いいね。行きたいな。どこ行こうか?」
「どこにでも。……だって長い人生だよ。時間はいくらでもある」
たくさんの時間を、思い出を積み重ねて、こんなこともあったねっていつか笑い話にできたらいい。
君と2人で。家族として。
【マジで離婚する3日前!?】
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