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翌日。俺は会社を休んだ。凛子の携帯電話の電源は切られている。
彼女が今どこにいるのか見当もつかない。なぜなら凛子に実家はない。
両親を早くに亡くし、祖父母に育てられた凛子だったが、その祖父母も去年他界した。兄弟はいない。
凛子に帰る家はない。
「凛子……」
銀行に行って自分の口座を確認したが、残高は大して変わっていなかった。
友達のところに身を寄せているのか?
いや、それは考えにくい。凛子はもともと友人が少ないタイプだ。今までに友人と紹介されたのは1人だけ。
しかしその彼女はいま仕事の都合でシンガポールに住んでいる。
まさか昨日の今日でシンガポールに飛んでいることはないだろう。
途方に暮れた俺は自分の友人である福井(ふくい)に連絡した。
前の会社の後輩。家にも何度か遊びにきたことがあって、凛子とも交流があった。
彼は現在調査会社に務めて探偵のようなことをやっている。
性格には難あり。口から先に生まれてきたような男だが、この男以外に頼れそうな相手はいない。
福井に電話して事の顛末を話すと、奴は笑いながらも相談に乗ることをOKしてくれた。
今日の昼に俺の家の近所の喫茶店に寄るからそこで、と。
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