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福井がぽつりと言った。
「人妻の浮気相手。パート先の人間の割合がだいたい7割ぐらいらしいっスよ。たまに宅急便屋さんもあるらしいっスけどね。『奥さん! 奥さ~ん!』なんつって。AVみたいですね。はは」
おどけた福井の頭をテーブルの上のメニューで軽く叩いた。
「……馬鹿なこと言うな。凛子はそんな女じゃない。今までに凛子が付き合ったのは俺だけだ」
「ゲッ。てことは凛子さんは先輩しか男を知らないってことなんスね」
「ゲッてなんだよ。ゲッて。別にいいだろ」
「いやぁ~。じゃあ凛子さん真っ盛りっスねー。先輩ちゃんと夜のお務めしてました?」
「……してたよ」
福井が声を上げた。
「今の間は怪しい! 俺のことナメないでください!」
腐っても人を見る目はあるのか。ため息を1つついて、俺は嫌々白状した。
「……最近は前より減ってたな。でも週2回はしてた」
福井はまるで探偵が犯人を追い詰めるがごとく得意げに言った。
「週2でも少なくないとは思いますが、減ったことで凛子さんは火照った熱を持て余していた。
……パート先の眼科が怪しいです!」
「浮気はない!」
凛子に限ってはありえない。未だ電気すらつけさせてくれないもの慣れなさだというのに。
福井がずいっと身を乗り出して神妙な顔で言った。
「じゃあ聞きますけど、なんで凛子さんは先輩にパート辞めたこと内緒にしてたんスか?」
「それは……たまたま、とかじゃ……」
「普通そんなことを旦那に1ヶ月も黙ってますか? なにかやましいことがあったからじゃないんですか?」
「…………」
答えられないでいると、福井が立ち上がった。
「凛子さんが先輩に退職を黙っていたのはきっと何か理由があるっスよ」
俺の知らないことがあるのか?
何か……。
「ま。ここで討論してもラチあかなそーですし、凛子さんのパート先でも行きますかー? 今ならちょうどお昼休みでしょ」
「え? ああ……」
腰が重い。行くのが怖い。でも行かないと。
真実を知るために。
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