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「うわ……き……」
ショックで頭がグラグラする俺を押しのけて福井がずいっと前に出た。
「そうそう! バレちゃって! それで相手に話つけに」
佐々木さんが口元に手を当てて声を上げた。
「やだー! 花井先生やばーい! それって慰謝料とかってことですよねー?」
(花井……)
相手を聞き出せてにやりと笑った福井が言った。
「で、その花井先生とやらは今いずこに? 食事っスか?」
「あー。いつもコンビニで買ってくるだけだからもう戻ってくると思いますよー? 待ちます? なんからここでお話されます? 私奥に行くんでー。聞かないですから!」
佐々木さんはすっかりゴシップを楽しむ顔になっていた。俺は佐々木さんに聞いた。
「あの、妻と花井先生はどのような……」
「あー。うーん。旦那さんには言いにくいんですけど、別のパートさんが何度か見たんですよね~。
午前診が終わった後に東城さんが花井先生の車に乗ってどっか行っちゃうの」
「へえ! 車っスか!」
車で男と2人で? ……。
「まあ午後診前には帰ってくるんですけど~。毎度医院に帰ってくるタイミングまで2人でズラしてて、妙な雰囲気漂ってたんですよねー 」
午前診から午後診まで4時間ある。
4時間も2人で何を。
「……福井。帰る」
胃が痛い。苦しい。
「ええ! せんぱぁい。待たないんですか? だって怪しいっスよ!」
「もういいよ! これ以上何も聞きたくない!」
凛子。何が本当かわからない。凛子が俺を裏切るわけがないのに。
逃げようとすると、ドアから入ってきたばかりの人と真正面からぶつかった。
「すみません」
白衣を着た長身の男。ネームプレートには『花井』と書いてあった。
「はな……い……」
俺の後に続いて福井がボソッと言った。
「イケメンっスねー」
優しげな笑顔。こっちが卑屈になりそうになるくらい精悍な男だった。
コンビニの袋も持ってそのまま奥に行こうとした花井を佐々木さんが引き止めた。
「先生! こちら東城さんの旦那さんです!」
花井が目を丸くした。
「え? 凛子さんの?」
(“凛子”? 名前で呼ぶほど親しいのか?)
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