第1章

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 「マックに寄っていく?」スクールバッグを揺らしながら、海斗が近寄ってきた。七海も、こっちを見ている。  七海の隣には、野崎美咲の姿があった。美咲とは中学に入ってから知り合いになったが、彼女は七海と親友関係にあり、去年の夏休みくらいから、海斗や七海と四人で一緒に遊ぶようになっていた。  学校から少し歩いたところにマクドナルドがあり、放課後に、四人で幾度となく立ち寄っていた。  海斗の言葉に頷いた拓海は、七海たちに向って歩き出した。海斗が、ステップを踏むように方向転換をする。  七海たちの前に立った拓海は、一緒に行くかどうかを確認した。  「行く」二人が、声を揃えて返事をする。  拓海と海斗、七海、美咲の四人は、肩を並べながら、教室を後にした。  そんな四人が向かったのは、マクドナルドの先にあるファミレスだった。  拓海が、みんなにご馳走すると言い出したからだ。  拓海は、競馬で大勝した父親から臨時に小遣いをもらっていた。しかも、今回は諭吉くんという大盤振る舞いである。  大の競馬好きな拓海の父親は、馬券が当たると、気前よく家族みんなにご馳走し、小遣いもくれた。そのかいもあって、家族みんなが、父親が競馬をすることに対して理解を示すようになっていた。  拓海も、競馬が行われている土日の昼間に家にいるときは、父親と一緒に、父親が買った馬がレースに勝つのを応援していた。  ファミレスに入った四人は、めいめい、好きなメニューを注文した。  七海と美咲の二人は、太ったらどうしようなどと言いながらも、パンケーキとヨーグルトパフェを、それぞれ注文した。海斗に至っては、エッグベネディクトだ。  海斗曰く、エッグベネディクトは、原価率が高いメニューだということである。つまり、お客さんが得をするメニューということだ。  ファミレスの世界も競争が激しく、お客さんの目を引くためのお得感のあるメニューが必要だということであり、このファミレスでは、エッグベネディクトなのだそうだ。お金に対する執着心の強い海斗ならではの情報だった。  拓海は、クラブハウスサンドを注文した。ドリンクバーのアイスティとトーストのサンドを、交互に口に運ぶ。  「オレと拓海と七海って、本当に違うクラスにならないよなぁ」添え物のポテトを口に入れナイフとフォークを皿の上に置いた海斗が、拓海と七海に向って、交互に視線を送った。
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