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「……麻広ちゃん」
「うん?」
「……おれ、ね」
恐る恐る手を伸ばして、麻広ちゃんの服をぎゅっと掴む。
こんなの、誰にも見せられない。こんなガキくさくて情けない姿、誰にも。
「真壁が、好きだった」
「……ん」
「好きなんだよ、今でも……ッ」
一度綻んだ心の隙は、簡単に気持ちを零していく。
誰にも打ち明けず胸の内に秘めてきた想いに溺れてしまいそうなくらいに、溢れていく。
苦しい。苦しい。――切ない。
あの腕に抱かれる聖が羨ましい。だけど、嫌いになんてなれなくて。ふたりの幸せを、壊す気にもなれなくて。
俺、どうしたいんだろう。俺の気持ちは、どこへ行けばいいんだろう。
『……ずっと真壁のこと好きだった神谷が、何を思ってるのか――すげえ、興味ある』
わかんねえよ。クソ佐野。こっちが聞きたいよ。そんな事。
外野で酔っ払いサラリーマン達が囃したてる声が聞こえるけど、構いはせず俺は麻広ちゃんの腕の中でびーびーと泣き続けた。
涙と一緒に、真壁への想いも流れてしまえばいいのに。
苦しいだけの想いなんて、いらねえよ。どっかいっちまえ。ばーか。
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