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『……これ』
つい、と差し出されたのは青いハンカチ。ぼろぼろと涙を零す俺に、そいつは申し訳なさそうな顔で手を差し伸べてきた。
『まか、べ』
『ごめん。盗み聞きするつもりは、無かったんだけど……』
ぐらり、と視界が揺らいだ。もう終わりだ。俺の学校生活は終わりだ。ゲイだホモだとなじられるだけになるんだ。
差し出されたハンカチを払いのけ、ギッと睨みつけた。
『可笑しかったら笑えよ! 男が、男にフラれて泣くとか、情けねえ! 気持ち悪ぃって!!』
『神谷』
『俺だって、こんな自分嫌だ……けど、変われない。女の子を好きになるだなんて、俺には無理だ』
もう、嫌だった。
“普通と変わらない自分”を装って生きるのは。皆に、嘘を吐いて生きていくのは。
周りが段々と彼女を作っていく中、俺は焦っていたのかも知れない。いつか投げかけられるだろう「何故、彼女を作らないのか――」という質問に。
拳を握って板張りの床を何度も打ち付ける俺の手を取り、真壁はまっすぐに俺を見据えた。
『神谷は、そのままでいいんだよ』と囁いて。俺の人生で初めて聞いた誰よりも優しい声で。
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