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じたばたともがく俺を尻目に、佐野はどんどん歩みを進めていく。
今度はどこへ連れて行く気なんだろうか。また、あんな光景を見せ付けられるんだろうか。
そうはさせるかと今まで以上に手足をばたつかせた。たぶん、佐野のTシャツに血がついてしまったかもしれないけど。自業自得だばーか。
「神谷」
「ッ、何だよ……」
Tシャツの隙間から睨み上げると、思いのほか穏やかな顔をした佐野が薄い唇をきゅっと上げた。
「その情けねえ面晒してもいいなら、そうすれば?」とだけ言って。
「……」
そっと、ほんとにそっとTシャツをターバンよろしく頭にかぶり直して顔も覆った。
そして手足を揃えてじっと耐えた。俺は人形。今は人形、と自分に強く言い聞かせて。
薄手の真っ白なTシャツ越しに見える空は、すべてを恨みたくなるくらいに青くて、俺は唇を噛み締めた。
ぼろぼろと頬を濡らしていた涙は、いつの間にかぴたりと止まっていて。
そっと、傷だらけの手をぎゅうっと握り締めた。
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