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何の為にわざわざこんな所まで来たのかはわからないけれど、この涼しさは助かる。
足を止めた佐野は俺を抱え直して肩で扉を開けた。
膝の怪我は大したことないし、周りに人の気配はないからTシャツを剥ぎ取ってこの腕から飛び降りるのが一番早いんだろうけど。何故か、佐野は俺を降ろさないままだった。
「わっ」
ネカフェ特有の安いソファに俺を落とし、佐野は何も言わず出て行った。
Tシャツを頭から剥ぎ取り、覗き見防止だけがされた簡易的な扉を何度もまばたきを繰り返しながら見つめた。何が、起きてるんだろうか。
辺りはしんと静まり、人の気配は無い。
いや、人は居るのかもしれないけど。この静けさはなんだか不気味にも思える。
ソファに身を落としたまま茫然としていたら、目の前のすりガラスを真っ黒な影が塗り潰し佐野が顔を覗かせた。
「足出せ」
「なに、」
「手当てしてやる」
「……何でお前そんなに上からなわけ」
無視かよ。
どこから用意してきたのか、真っ白なタオルを俺の足の下にひくとミネラルウォーターで傷口を濡らしていく。
わざわざこんな事しなくても、トイレにでも行って洗えば早いのに。何故か、佐野は俺の足元に膝をついて甲斐甲斐しく世話を焼いてくる。正直気持ち悪い。あとで1000倍くらいにして返せとか言ってきそう。
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