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「別に、お前がした事で泣いたんじゃねえし。ってか泣いてねえし」 「……その面で泣いてねえは無理だわ」 「うるせえ」  手当てを続ける佐野の手は、口調や態度とは真逆でやたらと優しくて笑える。誰だよお前、って。  その面、と言われてまだそんなに酷い顔をしているのかと気にはなったものの、狭い個室に当然鏡はないし、両手は手当てを受けていて目元を拭うこともできない。  身じろぎする俺を、唇を片方だけ上げる憎たらしい笑みを浮かべて見つめて、佐野は続ける。 「どこまで、お前が笑ってられんのか確かめたかったんだ」 「……どこまでって?」 「“いつだって弱音を吐かずに誰からも頼りにされている神谷悠紀”ってのが、どこまで持つか」 「……」  手当てを終えた、ガーゼと絆創膏塗れのぶっさいくな俺の掌と膝小僧。  間抜け過ぎて、乾いた笑いが漏れた。 「何だよそれ、あほくさ」 「真壁がいつも言ってたんだよ。同い年だけど、いつも叱ってくれて兄貴みたいだって」 「……」 「まあ、それがフェイクなのはもう判ったけどな」 「フェイク?」  早川に借りた救急箱を片すと、佐野は立ち上がりながら俺を見下ろした。  灯りは天井に吊るされた間接照明のみで、逆光になってしまった今、佐野の表情が判らない。 「本当のお前は、泣き虫で弱くて、本音のひとつも口に出来ない――とてもじゃないけど頼りになんかならない情けない奴だって」  と。冷淡な言葉を言い放った表情が。 .
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