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パシン、と閉められた扉。
散々色んな人に踏み鳴らされてきたカーペットが、佐野の足音をいくらか消している。それでも、奴の靴底はゴツ、ゴツと鈍い音を響かせて遠ざかっていく。
……泣き虫で、弱いってさ。
真新しいガーゼで覆われた手を目の前に持っていき、そっと目尻を撫でた。
ピリリ、と小さくて鋭い痛みが走り、擦りすぎた皮膚がめくれているのだと気付いた。
ついでにいうと、やけに瞼が重たくて今すぐにでも布団にダイブして夢の国に旅立ちたい。
「……言うとおり、だわな」
この姿を、情けないと言わずして何と言うか。
重い息を吐き出すと同時にソファに身体を預けて目を閉じた。俺だって、こんな自分、今まで知らなかったよ。
こんなガキで情けなくて泣き虫で、弱っちい自分なんて、知りたくもなかったよ。
両手で顔を覆うと、消毒液の匂いがツンと鼻をつき、泣きたいのか怒りたいのかわからなくなってきた。とりあえず臭い。
「あー……よりによって佐野に言われるとかマジ……」
今まで、必死だった。
必死で、真壁の隣にいられるように、過ごしてきた。
いつだって頼られるように勉強を頑張った。スポーツも料理も、やりたくも無い見ず知らずの他人とのコミュニケーションも。
全部全部、真壁の隣に、“頼りになる友達”として在るため。
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