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男が男を好きだなんて、気持ち悪くないのか。
男に捨てられた俺を、無様とは思わないのか。
震える唇で問いかければ、真壁はにこりと笑って少し乱暴に涙を拭ってくれた。
表情と声色は底なしに優しいくせに、手つきはちょっと雑とかどんなギャップだ。ちょっとドキっとした自分が嫌だわ。何のドキ! だよ。
『別に、気持ち悪いだなんて思わないよ』
『……嘘だ』
『思わないってば。誰を好きかで、これまでの神谷が変わるの? 違うでしょ?』
『ぬう……』
呆れたような溜息を吐き、真壁は立ちあがり手を差し伸べてきた。
帰ろう、と。促して。
何度も頷いて、押し付けられたハンカチで涙を拭って、真壁の後に続く。この時誘われるがまま訪れた真壁宅で食った真壁ママの晩御飯は、今でも忘れられないくらいに美味しくて、優しい味だった。
なあ、真壁――知らないだろう。
13のガキが、13のガキにときめいて、それからずっと思い続けているだなんて。
お前以外、本当の俺を知ったうえで受け入れてくれる奴なんて、居なかった。大切だった。誰よりも。
いつかお前に彼女が出来て結婚して、子どもができて――その時は、うんと可愛がってやろう、だなんて遠い未来の日々を想像したりする事もあった。
俺には手に入れられない幸せは、真壁に託そうと。
なのに、何でだよ。何で、お前までこっち側にきちまうの。何で、――俺とお前が立っている場所は同じなのに、そんなに幸せそうなの。
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