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「……食わねえの」
「ああ、いや、貰う。さんきゅ」
佐野に倣って蓋を取ってアイスを口に運ぶ。
ただの気まぐれで買ってきてくれたんだろうけど、暑さと自己嫌悪でしょげていた心にひんやりと冷たいアイスが染み渡る。
ネカフェの狭い個室で男がふたり、アイスを無言で食す光景はさぞ可笑しいだろう。俺も、この状況が謎で仕方ない。
甘ったるいバニラの匂いと、ミントの清涼感たっぷりの匂いで、鼻が迷子になりそう。
扉に寄りかかったままアイスを食べる佐野の手元を覗き込めば、すでに半分以上食べていた。信じられない。
「何だよその顔」
「へっ」
美味しそうに食べている姿が解せない――という気持ちが視線に表れていたのか、佐野は不服そうな顔をして俺を見下ろしてきた。
曖昧に笑って誤魔化せば、アイスを食べる手を止めてじっと俺の手元を見てくる。
「どうせ、そんな歯磨き粉みたいなのよく食えるなって言いたいんだろ」と、拗ねたように吐き捨てて。
「歯磨き粉」
「そ、これ食ってるといつも言われんだよ。美味いのに」
チョコミン党は肩身がせめーの。とほざきながら、残りも一気に食べてしまう。
行儀悪くスプーンを咥えたまま、ぶんぶんと上下に振って蓋をしめる顔が、ちょっとだけ名残惜しそうなのはきっと気のせいじゃない。
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