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「神谷」
ふいに名前を呼ばれて振り返った。
振り向かずとも、その声音が誰のものかを察して自然と笑みが浮かぶ。
「――真壁」
ただ名前を呼ばれることが、どうしてこんなにも嬉しいのだろうか。
真正面から見る穏やかな笑顔は、中学の頃から何も変わっちゃいない。いつまでも変わらない、俺の――……。
「真壁?」
ふと、真壁からじわじわと脳髄を揺さぶるような香りが漂い始めていた。
色香を纏う――っていうんだろうか。とりあえず、フェロモン的なものがぶわりと漂っている。
そりゃあ、俺だって健全な19歳男子だ。人並の性欲はある。もちろん、中学からこれまで真壁を“そういう目”で見てきたし、何度もオカズにさせて頂いた。
だから、遠慮無しに色気を振り撒かれちゃたまったもんじゃない。
「何、どうし、」
どうした――そう告げようとした唇は、一瞬でからりと渇き、言葉が出なくなった。
目の前に居た。確かに目の前に居た筈の真壁は、たった一度のまばたきの間に遠ざかり、ひとりの男を抱いていた。
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