第壱章

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「いや。」 詩葉の目はもう怯えていない。怖がってもいない。 ただ覚悟をその瞳に写していた。 「嫌、じゃない。 お前がここいても困ることしか起きないし、人間だとバレれば学校がどうなるかわからない。」 「今ここに入学できてる時点でバレてないってことだし、バレたのは倉間にだけだった。他の人は何も言ってこなかった。だから大丈夫。」 全くの正論。倉間はぐうの音もでない。 それでもお互いに引けないから、二人の間で火花が散る。 「あのね、倉間がここまで言うのにはわけがあるんだよ。詩葉ちゃん。」 「わけ?」 放っておけばいつまでも睨み合っていそうな二人を止めるべく玲は仲裁に入る。 「そう。 この学校もやってることは他の人間が行ってる学校と大した変わりはない。だけど、やっぱり違うとこもあるんだ。 その時一番困るのは詩葉ちゃんなんだ。人間だってバレてないのはいいとして、そうなれば誰も助けてくれる人はいないよ 。自分一人でなんとかしないといけないんだよ。 そんな苦労をしてまで、これから三年間ここにいる気があるの?覚悟があるの? 今ならまだ引き返せる。」 玲先輩にしては厳しい言葉だと詩葉は思った。けれどここで譲れないわけが詩葉にもある。 「玲先輩。私は地元の友達が誘ってくれる中、泣く泣く皆んなが行く高校を諦めてここに決めたんです。 私には皆んなと同じところに行けないわけがあったからです。 だからどうしたって、たとえ嫌だったとしても、私はここで高校生活を送るしかないんです。」 玲も疾風も厳しく底の読めない冷たい目で彼女を見ている。しかし彼女はそれにも負けない静かだが熱い緋炎を灯した目で見つめ返した。 「これは絶対に譲れないんです。」 沈黙が続いた。 まるでお互いの意思をはかるかのように。 「…わかったよ。俺たちの負けだ。」 「玲?!」 倉間が非難の声をあびせるが、それを受けても玲には苦笑いするしか術がなかった。 それは彼自身にも理解しがたいことで、口で上手く説明のできない感覚だったから。 「詳しいことはよく分からないけど、詩葉ちゃんにも事情があるみたいだからね。 それに、どうにも詩葉ちゃんの言葉を聞いてるとこっちが折れるしかない気がしてきちゃって。」 あはは、ごめん。と玲は倉間に謝る。
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