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春独特の柔らかな空気が辺りいっぱいに満ちている。
そんな中で紺地に緋色のチェック柄のスカートの裾を春風に遊ばせ、朝の静かな小道を鼻歌交じりに歩く少女。まだ糊の取れきれていないスカートもブレザーも彼女が一年生だということを表している。
「この道を曲がると...」
高めに結いあげた長い黒髪を翻しながら小道の角を曲がった少女のすぐ右手には歴史を感じさせる木造校舎。これから来るであろう新入生のために開かれている門の脇には流麗な字で書かれた校札が掛けられている。
「私立、綾樫高校。」
少女は誰にともなく呟きをこぼした。そして暫く校舎を見つめていたかと思うと、徐に手を鳴らした。
「楽しくなりますように。面白くなりますように。勉強もそこそこできますように。退屈しませんように。恋愛できますように。青春できますように。」
唐突に口にした学校生活への望みを言い終えると、よしと言い再び校門へと足を向けた。
校門をくぐると少女は何となく感じるものが変わったのを感じた。これから三年間過ごす学校。実際に制服を着て生徒として足を踏み入れると、改めて身の引き締まる思いがする。少し辺りを見回してみると同じ制服を着た人たちがちらほらといた。
そのときクラス発表の紙も見つけ、僅かに逸る心臓を抑えつつ足早に向かい自分の名前を探す。
「か、か、か...」
一組から順番に見ていくと漸く四組のところで名前を見つけた。
「あった...!」
早速教室に上がろうと踵を返す。
しかしその時、すれ違った人が言った言葉に思わず足を止めた。
「お前、人間くさいな。」
何を言っているんだろう。くさいとは失礼なと思うと同時にその発言の不思議さに、その声の主を見上げた。
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