第壱章

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「何だ?」 高身長の黒髪が綺麗な男子だった。そこら辺の女子なんかには負けないくらいに艶やかで、桜の花びらがくっ付けば一枚の反物と見紛うほど。 「いや、うん。桜、ついてるよ。」 背伸びして彼の髪にくっ付いている花びらをつまんで見せた。 「ありがとう。」 「いーえ。 それより女の子に向かってくさいってないんじゃない?言い方ってものがあるよ。...しかもどうして見ず知らずの人にそんなこと言われなきゃいけないの、とも思ってるんだけどな。名前は?」 彼は問われて初めて自分の失態に気づいたようで、わざわざ律儀に軽くお辞儀した。 「ああ...悪かった。 俺の名前は倉間疾風。お前の名前は?」 「私は春日詩葉。」 「よろしく。 話は戻るが、言い方は違ったかもしれないけど、人間くさいというのはそのままの意味だ。」 「人間なんだから当たり前でしょ?」 双方が首を傾げる。 倉間は自分の言わんとしている所を何とか理解させようと身振りで伝えようとする。 「…だから、人間のにおいが染み付いてるぞって意味なんだが。」 「そもそもさ、人間のにおいって何?」 それを見ても春日はまだ首を傾げたまま。くさいというのは体臭や柔軟剤の香りのことを言っているんだろうかと思った。けど、どうにも倉間の言う『人間のにおい』というのはそんなに簡単なことじゃない気がした。 「つまり、お前からは妖のにおいがしないってことだ。」 突拍子もない言葉に絶句した。というよりは、するしかなかった。妖というのは妖怪とかそういう幽霊的なものを指すあれだろうか。そういう存在を信じる信じないは個人の自由だと思ってるけど、それを公然と口にするこの倉間という男子には色々な感情を通り過ぎて呆れる。 「妖って…倉間からかってるでしょ。」 春日が笑うと今度は倉間が呆れた顔をした。 「ここで人間のにおいさせてるお前の方が呆れるぞ。ここは妖の学校だろ。お前の体どうなってんだ?」 そう言うや否や倉間は距離を縮め、すんと匂いを嗅いだ。 春日はそれに反射的に身を引く。 何この人。普通の男子だと思ったら妖だの何だの言うし、匂い嗅いでくるし、距離近いし。倉間、普通の人じゃない。
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