第壱章

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「ちょっと、近いし匂い嗅ぐのやめてよ。」 このままこんな変な人と一緒にいたら危ない危ない。軽く手で押し返すと倉間はあっさり離れた。よく分からないけど、とりあえずほっとした。 「妖とか意味がわからない。倉間おかしいよ。ごめん、付き合いきれない。じゃあね。」 当たり障りのない言葉で春日は倉間との会話を強制終了させる。 これ以上付き合っていては何を言われるか分かったものじゃない。拉致があかないし、早めに会話を切り上げて校舎へ入ろう。初日からこんなのでは先が思いやられるよ… そう思いながら足を踏み出す。ところが、くんっと手が張り一歩目を踏み出すことは出来ない。どうして、と思い見ると手首を倉間に掴まれていた。 「何?」 見上げると彼は先程の呆れた顔とうって変わって真剣な顔で、目でこちらを見つめている。真剣というよりは、むしろほんの少しの冷たささえ感じる瞳。 「お前はそれ、本気で言ってるのか?」 「っ…」 その目に気圧され、答えに詰まる。 自分でもどうしようもない感情が溢れてきた。どうして。何にとは分からない。けれど恐怖に似たような、そんな気持ち。今までに同じ年の男子を怖いなんて思ったことは過去に一度だってないのに。 動くことも返事をすることもままならない。 「春日、ちょっと一緒に来てくれ。」 そんな彼女の様子には気付かず、倉間は掴んだままの手を引く。すると予想に反し大人しく着いてきたことに僅かに驚く。不審感丸出しだったはずなのに、今は何も言わず抵抗もしない。不思議に思うが今は優先事項があるため無言で目的地へ向かう。 倉間が足を止めたのは校舎の真裏にあるベンチの前。そのベンチにはある程度着古された感のある制服を身にまとった男子生徒が横になっていた。 「玲。話がある、起きろ。」 「はー…俺は疾風が来てるの分かったからとっくに起きてるんだけどね。」 面倒くさそうにあくびをしながら、体を起こす玲と呼ばれた男子は茶目を露わにした。眠いのになー、とこぼすが倉間の隣にいる春日を見るとその目を丸くした。 「おや、疾風が女の子を。」 「こいつは春日。妖じゃないと言い張るんだ。でもそれも強ち嘘じゃないのかもしれないと思ったから、お前に会わせに来た。」 玲は向けていた目を倉間に移し苦笑いした。 「うん、それは分かったからその子怖がってるからちょっとそのプレッシャーしまったら?」
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