第壱章

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そしてシャツを脱ぎ終えたのと同時に現れたのは。 「翼…」 大きく黒い翼。 「やっぱり疾風の姿はいつ見ても荘厳に思えるね。」 ぽそりと玲が零した言葉。しかし詩葉にも同じように思えた。 身長の半分くらいある大きく艶やかな漆黒の翼。まさに濡羽色というのが正しい表現かもしれない。きっとたたんでいただろうそれが広げられた時、揺らした空気がふわりと頬を撫でる。 綺麗とも言えるけど、それよりも壮麗、そんな言葉がぴったり。 「どう?」 静かに玲に問われ、はたと我に帰る。 「…すごい鍛えてるね。」 「いや、そこかよっ!」 疾風が青筋を立てたのを見て流石にふざけるところじゃなかったと後悔する。 でも同じ高校一年生とは思えないくらい。うっすら腹筋が割れていて色々すごい。男と女という違いはあるけど、私と同じ年の男子はこんなだったっけ。 考えているとだんだん恥ずかしくなってきて、そっとそこから目を離した。 「ごめん、ごめん。…羽、触ってもいい?」 その恥ずかしさを紛らわすように違うことを尋ねる。 詩葉には妖のことなんて一つも分かりはしない。 その存在を信じてはいないから、妖乃ち妖怪と言われたところで昔話にもでてくるような有名どころしか知らない。 けれどそれは無闇勝手に触れていいものではないように思えたから。 「好きにしろ…」 疾風は尋ねる彼女には目もくれず明後日の方を見て言い放つ。 「じゃあ…失礼します…」 本当はいやなのかな…と思いつつも、そっと黒く綺麗なそれに手を伸ばす。 「っ…うわ…玲先輩!」 「うん?なに?」 何故か玲は驚いた顔をしていたが、軽く興奮状態の詩葉にそれはあまりに些細な事で気にとまらなかった。 「生きてる!」 今感じている気持ちをどう表現したらいいか、考えて出た言葉は案外シンプルだった。 「…うん、そうだね。」 その言葉に一瞬虚をつかれたように顔をした彼だけれど、また優しい笑みを浮かべた。その笑みは詩葉に向かっているようでいて、しかし彼女に向けるには似つかわしくない穏やかで幸せそうな顔。
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