第壱章

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「生きてるね、倉間。」 改めて目を見て当人に感想を告げると、これはまたうって変わって彼は変なものでも見るような目をしていた。 「当たり前だろ。」 何を至極当然の事を、と阿呆を見るような目を向けられた彼女だが、今自分の中に駆け巡っている気持ちのせいでそんなことは少しだって気にならなかった。 見ていれば倉間が生きてる事なんて普通に一目瞭然だし、誰が見れば生きていないように見えるのかと問いたいくらい。でも私の中では"妖"と言われたら、それは生きとし生けるものじゃない。死後の何か一般人なんかには知る人もいないような不思議な過程があって、それで生まれた存在。 まあ本当のところはどうなのかは知らないけど。 だから倉間の翼が、確かに温かくて体温があった事に驚いた。 私と同じ、生きている人のあたたかさ。 「うん。そうだね、馬鹿言った。」 「ほんと馬鹿だな。」 「あんまり無闇にマイナスな言葉使ったらダメなんだよ。本当になっちゃうんだから。」 「お前が先に馬鹿って言ったんだろ。」 倉間が生きてて、ここにいることは紛れも無い本当のこと。背中に翼があるのも本当のこと。 それは人ではないことの証明に他ならない。 でもこうやって冗談みたいなことも言うし、正直何が違うんだろうと思うけど。 「ねぇ、玲先輩。」 「無視かよ。」 「ん?なに?」 人と同じで無視されたら拗ねちゃうみたいだけど。 「私、信じます。倉間が妖だってこと。 ここが妖の学校だっていうことも。」 まだ把握しきれてないところもあるけど。 今、目の前にあることは現実なんだって。 「そっか。 それでも詩葉ちゃんはここにいるの?」 詩葉が事実を認め受け入れ、それでもという気持ちがどれほどのものなのか確かめたい。 それが玲の本音だ。 「は…」 「やめとけ。」 はい、と詩葉が答えようとするのを倉間は遮った。 「ここはお前の来るとこじゃない。学校辞めろ。」 先程までの普通の空気感はどこへいったのか、二人がここへ来た時の緊張感に逆戻りした。ぴんと張り詰めた空気が場を満たし、玲は何かとりなす言葉をかける事も躊躇われてしまった。 けれどただ一つ、唯一で絶対的に、違う事がある。
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