7人が本棚に入れています
本棚に追加
釣りを始めても、僕は、牧場の事が気になって集中出来なかった。
牧場を続けると言ってしまった。
あの家族の生活がかかっている。
代々暮らした家を出るのは嫌だろうし…弥生さんは、あの年になって他の土地へ行くなんて考えられないだろう。
あの父が、いつまで居ても良いと言うなんて考えにくいけど、母は、父の事をお人好しの所が有ると言っていた。
お人好しじゃなければ、もっと財産を残していたはずだと…
あの牧場の他にも融資をして、戻らないお金が沢山有る。
それを無理に取り立てたりしないらしかった。
「菱、引いてるぞ」
「あっ!」
やった!
イワナが釣れた!
暗くなる前にここを出なければ…
僕は、3匹、慎二は5匹釣って、沢を出た。
【牧場】
牧場に帰ると、魚をさつきさんに渡して、料理してもらう事にした。
「良かったら、皆さんもどうぞ」
「ありがとうね」
【客間】
若い女の子が、料理を運んで来てくれた。
「あれ?昨日の子じゃないか?」
慎二はそう言うけど、僕は、目が悪いので良くわからない。
「昨日うちに泊まった人達って、あの釣具屋さんで会ったお兄さん達だったのね。朝から釣りに行ったって聞いて、まさか、と思ったんだけど」
さつきさんの子供で、凛ちゃん。
この春高校2年になると、その子は言った。
駿さんの妹さんだ。
「ちゃんと熊除けの鈴つけて行った?」
「うん。おかげで無事に帰れたよ。ありがとう」
「冷めないうちに、食べて」
イワナ料理が並んでいる。
刺身に塩焼きに、ムニエル、フライ…
「旨そうだな。頂きます」
慎二は、フライから…
「頂きます」
僕は、ムニエルを食べてみた。
美味しかった。
最初のコメントを投稿しよう!