第1章 初めての北海道

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釣りを始めても、僕は、牧場の事が気になって集中出来なかった。 牧場を続けると言ってしまった。 あの家族の生活がかかっている。 代々暮らした家を出るのは嫌だろうし…弥生さんは、あの年になって他の土地へ行くなんて考えられないだろう。 あの父が、いつまで居ても良いと言うなんて考えにくいけど、母は、父の事をお人好しの所が有ると言っていた。 お人好しじゃなければ、もっと財産を残していたはずだと… あの牧場の他にも融資をして、戻らないお金が沢山有る。 それを無理に取り立てたりしないらしかった。 「菱、引いてるぞ」 「あっ!」 やった! イワナが釣れた! 暗くなる前にここを出なければ… 僕は、3匹、慎二は5匹釣って、沢を出た。 【牧場】 牧場に帰ると、魚をさつきさんに渡して、料理してもらう事にした。 「良かったら、皆さんもどうぞ」 「ありがとうね」 【客間】 若い女の子が、料理を運んで来てくれた。 「あれ?昨日の子じゃないか?」 慎二はそう言うけど、僕は、目が悪いので良くわからない。 「昨日うちに泊まった人達って、あの釣具屋さんで会ったお兄さん達だったのね。朝から釣りに行ったって聞いて、まさか、と思ったんだけど」 さつきさんの子供で、凛ちゃん。 この春高校2年になると、その子は言った。 駿さんの妹さんだ。 「ちゃんと熊除けの鈴つけて行った?」 「うん。おかげで無事に帰れたよ。ありがとう」 「冷めないうちに、食べて」 イワナ料理が並んでいる。 刺身に塩焼きに、ムニエル、フライ… 「旨そうだな。頂きます」 慎二は、フライから… 「頂きます」 僕は、ムニエルを食べてみた。 美味しかった。
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