小工場の聖良さん

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「おっはよーっ」  昼休憩の時、休みだと思っていた山田先輩は前触れも無く現れた。  明らかな重役出勤。一年前まで1、2分の遅刻に眉間にシワを寄せていた人とは思えない。  オマケに食品を扱っているというのにキツイ香水をつけ、バッチリ化粧をしている。  なんでも噂では、あの手この手を駆使してようやく念願の工場長の愛人というポジションを獲得したらしい。  それを利用し係長の役職についた先輩は、作業場には顔を出さず、事務所でただお茶を飲み、書類に目を通すだけの毎日である。  その癖、定時になれば例え作業が遅れていても、残業している従業員を差し置きさっさと帰る始末。  一人に三つ四つの作業をさせるのは当たり前。トラブルが起きても素知らぬ顔で丸投げ。それが解決できなければ延々嫌みや愚痴を言い、罰として掃除をさせたりする。  あまりの横暴さに辞めていく人が後を絶たない。当然、残された従業員達の負担は大きくなり、週二だった休みは週一に減らされ、仕事量は増えていく。新たに人を雇えばいいのにそんな余裕は無いと募集もストップしている状態。  先輩の目的は分かっている。早く私を辞めさせたいんだ。  でもおあいにく様。私は決してアンタなんかに屈したりしない。  だけど、母と同年代の従業員が辛そうにしているのを見るのだけはさすがに我慢ならなかった。
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