小工場の聖良さん

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 朝礼が終わり、ネットや帽子、マスクなどを着用し、入念に消毒したのちようやく作業場へ。  私に最初に与えられた仕事は、ベルトコンベアで流れてくる商品にラベルシールを貼る極めて単純な作業だった。 「ゆっくりでいいからひとつひとつ丁寧にやって頂戴ね」 「は、はい」  山田さんに言われた通り、私はゆっくりゆっくり確実に作業をしていった。  だけどそれが災いして、だんだん追い付かなくなってきました。  あ、シールにシールがくっついた。早く剥がさなきゃ……ああ、破れちゃった。どうしよう。とりあえずこれは保留で……あああ、もう次があんなところに行ってる。ダメ、もう間に合わない。  そんなこんなでてんてこ舞いになっている私を見かけ、山田さんはコンベアを止め、目尻にシワを作り「大丈夫? 初めはみんなこうだから気にしないで」と言ってくれた。  それでも下を向いてモジモジする私に、首を傾げる山田さん。 「どうしたの?」 「いえ、そのぉ」 「もう、さっき言ったでしょ? 言いたい事があったら遠慮せず言ってちょうだい」  その言葉に気が緩み、私は我慢していた事を言った。 「…………おトイレ、いいですか?」  そんな右も左もトイレに行くタイミングも分からない私に、山田さんはその後も親切丁寧に仕事を教えてくれました。  私はその優しさに応えようと、必死になって食らい付いていきました。  研修期間の三ヶ月が過ぎ、ようやく作業が板についてきたそんな時、事態は急変しました。
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