小工場の聖良さん

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「ちょっと」  作業場に行く前に作業着にコロコロとローラーを当てていると、隣から威圧的な声がした。  目元しか見えない為、すぐには誰だか分からなかったので、胸の名札を見て判断した。  山田さんだった。 「どうして遅刻したの?」 「あ……」  私は思わず言葉を詰まらせた。  確かに私は、朝礼が始まる直前、ギリギリになって事務所に入っていた。  しかし遅刻と言ってもほんの1、2分です。それに作業自体には影響は無いわけだし、ここまで凄みのある剣幕で注意される事にさすがに疑問を持つ他ありませんでした。 「ねえ、どうして?」 「……すみません。時計が壊れていたみたいで」 「アナタはもう研修生じゃなく私達と同じ社員なんだから。足並み揃えてくれないと困るのよ。というか新人ならもっと早く来て事務所の掃除なりするものだけどね」 「はい……以後そうします」  まだ何か言いたそうに私の前に立ちはだかる山田さん。 「あの、何か……?」 「何って、まだ挨拶してないんじゃない?」 「あ、お、おはようございます」  それに対し挨拶を返すわけでもなく、山田さんは無言でその場から離れて行きました。  どうしたんだろ。まるで人が違う。今日は機嫌が悪いのかな。  やっぱり社会人になると遅刻は例え1秒でも許されない事なんだ。気をつけなくっちゃ。  その日から私は、まざまざと社会の厳しさを痛感する事になりました。
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