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私を拾った男の人は、すごく不器用で屈強で優しい人だった。
忘れもしない、雨が痛いくらいに降り注ぐ七月後半の真夜中。
昼間から酒を飲む父が、嫌いでしょうがなかった。
私を容赦なく殴ってくるその固い樫の木のような拳は大嫌いだったし、私を恨めしそうに睨むその黒い双眸も大嫌いだった。
母は私を生み落す代わりに命を落とした。だから母の声も顔も私は知らない。
母を大層愛していた父は、彼女の命を糧として生まれた私を心から憎んだ。
愛されたことなどなかった。
憎まれたことしかなかった。
父から残されたものは傷のみ。痛みだけが、彼から譲り受けた何かだった。
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