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一か月前、私は家を飛び出した。
制服のまま、履き古したスニーカーのまま夜の街へ飛び出した。
何かから逃げるようにして、殴られて痛い頬は見ないふりのままで。
家の中のありったけの金を持ち逃げしたのは、単に父とも呼びたくないあの男への密かな復讐だった。
七月の宵町はジメジメと蒸し暑くて、雨は大粒でいたくて、街のネオンは静かに煌めいていた。
落書きだらけの高架下で、肌に膜を張るようなぬるっとした空気に包まれたまま、眠るようにこの夜と融けてしまえればどんなに楽かと思った。
耳障りな電車の走る音が聞こえる。
高架下の草原で、手足を投げだして目を閉じるこんな少女を、皆憐憫の目で見るのだろう。
融けてしまえ、と願った。そんな時。
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