不毛恋愛

5/12
前へ
/12ページ
次へ
* ミルクは珈琲の色が見えなくなるくらいまで、角砂糖は三つ。 私が住む家の家主である鶴崎は、その強面に似合わず極度の甘党だった。 「はい、いつものどうぞ。」 「ああ、サンキュ」 鶴崎の家はとても広い。 一人で住むには広すぎて、もしかして誰かと暮らしていたの?と聞けば、彼は静かにうなずいた。 あんまりにも泣きそうに唇をかみしめて微笑むものだから、それ以上は聞けずじまいだ。 なんでも歌手をしているらしい。 時々ギターをかき鳴らしているときがあって、その時間が私は一番好きだ。 鶴崎は見た目に似合わず繊細な手つきで弦を弾き、とろけるような甘い声でラブソングを歌う。 「鶴の歌は素敵ね。私、大好きよ」 そういえば、彼は長い前髪を揺らして少し微笑む。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加