0人が本棚に入れています
本棚に追加
*
「つるさ…寝てる。珍しい」
紅茶がわいた、と仕事部屋に運びに行くと、鶴崎は部屋のど真ん中で大の字になって寝ていた。
周囲には書き散らかしてぐちゃぐちゃにした紙が何枚も散らばっている。
いつ見ても思うけれど、この部屋本当に汚い。
足の踏み場がないくらい紙や譜面が散らばっていて、窓はぴっちり締め切っていてカーテンも閉じられている。
灯りは天井からちろりとぶら下がるランプだけだから、此処にいたら目が悪くなるのは確実だ。
だけど鶴崎は、この部屋だけは掃除を拒否する。
「鶴崎、起きなよ。風邪ひくよ」
幾らゆすっても起きる気配はない。マジックペンで塗りたくったような隈が、日々の激務を物語っていた。
サラサラの頭をゆっくりと撫でる。彼の体温は人より少しだけ熱かった。
ふと、興味本位で長い前髪の下の瞳を見てみたくなった。
サラサラの黒髪に隠された彼の瞳は何色なのだろうとか、どんな寝顔なのだろうとか、確かめてみたい好奇心が強く疼いたのだ。
そおっと、起こさぬように前髪を上げる。
「…ふふ、なんかあどけないなぁ」
すうすうと寝息を立てるその顔はなんだか幼く見えた。
初めて見る光景にくすくす笑っている、と。
最初のコメントを投稿しよう!