1.あの子の名前

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いつもみたいに、駅前で別れると思ったのに、ヒロムは改札の中まで入って来た。 「あれ、バスは?」 「いいよ。家まで送る」 「めっずらしー」 「途中で野垂れ死んだら俺のせいになるだろうが」 「あはは」 「だから、送る」と言って、ホームに来た電車に乗った。熱のせいかもしれない。隣に立っているヒロムがすごく頼もしく感じた。 「あ。お母さん、今日いなかったんだ」と思い出したのは、家に向かう途中のことだった。 「はっ?」 「パート仲間とご飯に行くって言ってたから」 まあ寝てれば治るかな。食欲もないし。どうだっていい。 「誰もいないし、せっかく来たんだから、あがってけば?」と言うと、「んじゃ、ちょっとだけ」とヒロムも家にあがった。
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