1.あの子の名前

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それからすぐにまどろんで、いつの間にか眠っていた。 ドアのノックの音がして、目を覚ます。 「ヒロム?」って、言ったらお母さんが、壁の電気をつけた。 「なに寝てるの?ご飯は?」と、言うから、まだ夕方を過ぎたくらいだって、わかる。 「食べたくない。熱、あるし」 「本当に?」と、額に手をあてた。 「バイトなんか行くから」と、少し呆れたような顔をしたけど、すぐに「なにか温かいの作るね」と、部屋を出て行った。 食欲なんかない。 風邪のせいかもわかんない。 頭がぐらぐらするけど、それも、風邪のせいかわかんない。 怒ったような、呆れたような、困ったようなヒロムの声が聞こえる。 何度も、何度も鼓膜を揺らす。 傍にいないのに、声がする。 やっぱり風邪のせいかもしれない。 彼がそのとき、何を思っていたのかもわかんない。
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