1.あの子の名前

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急いで身支度を終わらせると、ヒロムはコンビニの雑誌コーナーで立ち読みをしていた。ガラス越しで目が合うと、彼はすぐに出てきた。 「ごめん。お待たせ」 「おう。いいよ。急に悪いな」 「ううん」 ゆっくりと、歩幅を合わせるように歩いた。通りの店も、クリスマスカラーだ。 「今日から、バイト復帰?」 「うん」 「なんか、しんどそうだったもんな」と言われるから、あの日のことを思い出して恥ずかしくなり、「けっこうね。にしてもさ、店の中がクリスマスになっててびっくりした」と話題を変えた。 「この前、みんなで飾り付け手伝わされて大変だった。店長、センスないからってさ」と、楽しそうに笑った。 「クリスマスか。早いね」としみじみした。 駅が少し遠くに見える。そこにある大きなツリーとトナカイが冬の象徴みたいな輝きを放っているのがわかった。 今年はどう過ごそうか?って、そんな話題を口にしようとしたときだった。 「今年のクリスマスさ、みんなで過ごそうかと思うんだけど」と、ヒロムが言ったのは。
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