1.あの子の名前

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後ろから肩を叩かれた。振り返るとヒロムが立っていて、小声で「メープルチュロスあるよ。さっき下げたやつ。持ってくるから」と言われた。 まさか。今度はこっちが謝らなくちゃいけなくなってしまった。 「申し訳ありません。お品物があったみたいなので、今お出ししますね」 女性は目を潤ませながら、「ありがとうございます」と笑顔になった。 お礼を一度口にすると壊れたお喋り人形みたいに、何度も頭を下げ、「ありがとうございました」と外へ出て行った。 どっちが店員かわからない。 そこで時間は丁度、閉店時間の20時半を迎えた。 ここメープルシロップは、ヘルシーさや健康が売りのドーナッツショップ。主に若い女性がターゲット。この前、地元情報誌で取り上げられてから、ちょっとだけ忙しくなった気がする。 21時になり、 お疲れ様でしたと更衣室に続く廊下のドアを開けた。目の前に立っていたのはヒロムだった。
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