54人が本棚に入れています
本棚に追加
「疲れた」とヒロムが言った。
「今日、平日なのに混んだよね」
「次は地獄の日曜日か」と、気だるそうに大あくびをした。
そう、日曜日がいちばん混むんだ。だからか、時給も百円高いのだけれど、体力的には結構ハードだったりする。
「日曜日、ヒロムは何時まで?」
「15時。亜実(アミ)は?」
「16時」
「帰り、どっか行く?」
「うん」
「じゃあ、待ってるわ」
「わかった」
「じゃあ気をつけて帰れよ。家着いたら、メールして」
ヒロムはコートのポケットに突っ込んでいた手を出して、左右に振った。
改札を抜けて振り返ると、ヒロムはもう人波の中に紛れて、すぐに見えなくなった。
ヒロムはバスで帰るのに、いつもこうやって改札の前まで送ってくれる。そして、家に着いたらメールしてと言ってくれる。
それだけで、充分優しいと思えるのに、なぜか形だけみたいに感じてしまうのは、彼が、名残惜しそうもなく、こうして帰ってしまうからだ。
最初のコメントを投稿しよう!