1.あの子の名前

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「疲れた」とヒロムが言った。 「今日、平日なのに混んだよね」 「次は地獄の日曜日か」と、気だるそうに大あくびをした。 そう、日曜日がいちばん混むんだ。だからか、時給も百円高いのだけれど、体力的には結構ハードだったりする。 「日曜日、ヒロムは何時まで?」 「15時。亜実(アミ)は?」 「16時」 「帰り、どっか行く?」 「うん」 「じゃあ、待ってるわ」 「わかった」 「じゃあ気をつけて帰れよ。家着いたら、メールして」 ヒロムはコートのポケットに突っ込んでいた手を出して、左右に振った。 改札を抜けて振り返ると、ヒロムはもう人波の中に紛れて、すぐに見えなくなった。 ヒロムはバスで帰るのに、いつもこうやって改札の前まで送ってくれる。そして、家に着いたらメールしてと言ってくれる。 それだけで、充分優しいと思えるのに、なぜか形だけみたいに感じてしまうのは、彼が、名残惜しそうもなく、こうして帰ってしまうからだ。
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