1.あの子の名前

8/30
前へ
/46ページ
次へ
思えば、ヒロムと付き合ったきっかけは、ほんの軽い出来事からだった。 バイトのみんなで集まってカラオケに行った日。ヒロムとは、前から仲が良かったからか、周りに付き合っていると思われていたらしく、そのことを尋ねられ、みんなに付き合ってないことを伝えると驚かれた。 それから周りに「付き合ってみたら?」と冷やかされたけど、ヒロムは嫌そうな顔ひとつ見せなかったし、否定的なことも言わないでただ笑っていた。 ヒロムのことはもともと嫌いではなかったし、気も合うほうだった。付き合うということに興味もある。 だから、なんとなく私が言ったんだ。その帰りに「付き合ってみる?」って。そしたら、「いいけど」って返された。 だから、ヒロムも似たような感覚で私のことを見ていたんだと思う。 少しお試しのような感覚がないとは言い切れないけど、付き合ってはいる。 だけどときどき私は、ヒロムのことが好きなのか、分からなかった。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54人が本棚に入れています
本棚に追加