鬼姫伝説

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 その夜、主と妻は嘆き悲しんでいたが綾姫さまは二人を説得し、宥めさせた。 二人は娘が決心をしているのだから娘の為に笑顔で見送ろうと誓った。 しかし、ただ一人、正太郎だけは納得しなかった。  正太郎は主と妻が寝静まったのを見計らって、綾姫さまを村外れまで連れて行こうとした。だが、綾姫さまは行こうとしなかった。 「綾姫さま、ここから逃げましょう。父上、母上には悪いがここより離れた遠い地で俺と一緒になりましょう。あなたを一生、幸せにしますから。この地に居ても良い思いはしないでしょう」  それでも、綾姫さまは首を縦には振らなかった。 「駄目よ。正太郎さん、貴方は中川家の大事な跡取りなのだから。それに、村人達から虐められて良いことは無かったけれども、お父様、お母様に大切に育ててくれて何より貴方と出会えて幸せだったわ。私が死んでも中川家を、貴方の子孫を、貴方がいるこの村を護るから心配しないで」  そう言って正太郎から離れて行った。正太郎は何も言えず綾姫さまが離れて行った方向を黙って見ている事しか出来なかった。  翌朝、綾姫さまが吊り橋から飛び降りたことで、久しぶりに雨が降り作物が育ち、地震もなくなり、戦も嘘のように収まり村に平和が訪れたそうな。正太郎達は、綾姫さまが飛び降りた川の近くに塚を建て、村人達の誤解を解かせた。  誤解が解かれた村人達は、中川家と供に綾姫さまに感謝し、奉ったということだ。
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