母、智恵子

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目が覚めた時、横たわった私の首の後ろに、氷枕が当てられていた。心地よい冷たさにもう一度目を閉じようとして、倒れそうになったのだと思い出して起き上がる。 「おや、目が覚めましたね」 見渡すと、そこは和室で、縁側に声の主は座っていた。グレーのシンプルな浴衣を着ていて、この場所によく似合っていた。しいて言うなら、髪の毛が茶色く染まっているのは、少し似つかわしくないかもしれない。しかもよく見れば、こちらに見える片耳だけで三つもピアス穴が開いている。 私は布団に寝かされていて、そのすぐ隣に、子供用の小さな布団で娘も寝かされていた。私より多めのタオルでくるまれた氷枕が、娘の頭にもある。 「あの、私は…」 「僕の家の前に倒れていたのですよ。軽い熱中症でしょう。血圧も呼吸数も安定していますが、心配でしたら病院を紹介しましょうか」 「いいえ!そんな、平気ですから…」 私の返事を聞いた彼は、無駄の無い所作で立ち上がる。どこへ行くのかと尋ねれば、ここで待っていなさいと微笑んだ。 私は腹にかけられていたタオルケットを畳み、娘の寝顔を覗く。肌は汗ばんでおらず、ボタンの一番上が開けられていた。ふと、私もブラウスのボタンに触れてみる。同じように一番上が開けられていて、顔が火照る。
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