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まだ幼かった頃、祖母が私の顔を見て涙を流したことがある。聞けば、まだ子供の頃に亡くなった末の娘…私にとっては叔母にあたる人のことを思い出したのだという。
私は当時の叔母に随分と面影が似ているらしく、時折、叔母が生き返ったような気持ちになると語っていた。
そういえば、叔母の死因は何だったろうか。あまり話したがらなかったが、確かに聞いた覚えがある。
あれは、そう…空襲の中を逃げる途中で爆弾を落とされ、祖母自身は一命を取り留めたものの、叔母は助からなかったと…。
まだ若かりし祖母が私を抱えて夜の中を走る。
叔母が亡くなったという、あの夜の中を駆け続ける。
これは夢だ。今まで何度となく見てきた夢に過ぎない。けれど、いつもなら障子が開いたところで途切れた夢は、今夜に限り、こんな場面まで続いている。
ふと、別の記憶が甦る。そういえば、祖母から聞いた空襲の日…叔母の命日は、半世紀以上前の今日ではなかったか。
子供の頃の姿が叔母によく似ていたという私。
春先に他界した祖母。
そして何よりも、叔母がこの世を去ったという日づけ。
逃げ惑う人々の声が近くで聞こえる。
空が赤く色づいた。
…まだ、私は夢から醒めることができない…。
夢の中…完
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