5人が本棚に入れています
本棚に追加
夢の中
遠くで警鐘が鳴り響いている。
空襲だ! 敵が来る! 早く逃げろと喚く声。
それを私は布団の中で聞いていた。
身動きが取れないのは恐怖のせいじゃない。金縛りという奴だ。
周囲がどんなに慌てふためいていても、私は何とも思わない。だって、これは総て夢だから。
子供の頃から何度も繰り返す不思議な夢。
TVでしか見たことのないような古い家の、がらんとした一室に布団が敷かれていた。
せんべい布団という言葉が似合いすぎる薄い布団が私の寝床で、私はそこに横たわっている。
眠ってはいないが体はぴくりとも動かせず、ただじっと天井を見上げていた。
そうするうちに外が騒がしくなり、逃げろと言われても自分は動けないからどうしよう…そう思ったところで障子か開く。
いつもそこで目が覚めた。
最初の頃は怖くて、両親にも何度となくこの夢の話をしたのだけれど、実害はまるでないから父も母も本気では聞いてくれず、私自身もいつしか慣れて、あくまで夢だと割り切るようになった。
あれから数十年。
今夜もまた、私はいつもの夢の中にいる。
でも、今夜の夢はいつもと違うようだった。
外が騒がしくなり、障子か開く。いつもならここで夢は終わるのに、私の意識は現実に戻らない。
一人の女の人が、切羽詰まった声で知らない名前を口走りながら部屋に入って来る。
その顔に見覚えがあった。
今年の春先に亡くなった祖母だ。見た目は随分と若いが見慣れた面立ちを見間違えることはない。
そういえば、祖母は戦争体験者で、辛い思いや怖い思いを何度もしたから、この先二度と戦争なんて起きないようにと、暇があれば、戒めのように当時の体験を語っていた。
私がこんな夢を見るようになったのも、祖母から聞いた話が原因だろう。
そんな祖母が必死の形相で布団の側へ駆け寄り、掛け布団に包むように私を抱え上げた。
「大丈夫! あんたはお母ちゃんが絶対に守るから!」
そう言いながら、また、私のものではない名前を口にする。
その響きに、ふと、記憶が甦った。
最初のコメントを投稿しよう!