第一章 未練なケーキ

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 「あ?、ハル、あんたまだこれ、大事に置いてるの?いい加減たべちゃいなよ?」  冷凍庫を覗いた紀子が叫んでいる。  ほっとけ。  と、私は心の中で悪態をついた。  氷を乱暴にグラスにいれた紀子はこれまた豪快にウイスキーを注いで持ってきた。  「……ったく、意外にロマンチストなのかな、ハルは……。別れた男と食べるつもりだったケーキを残しておくなんて……私だったらさっさと食べちゃうな」  テーブルの上のつまみに手を伸ばしながら、紀子は聞いた。  「……あれ、今食べない?」  一体どれだけ食べるんだ。  「だあめ。あのケーキは解凍に5時間かかります。それに幸せな時間を過ごすために買ったケーキだから、幸せな時に食べたいの」
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