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私はタバコを消して助手席の方にぐっと寄って、晶の肩に手を回して引き寄せ、その顔をこちらに向けさせて、キスした。
驚きで身を硬くした後、晶が震えているのが分かる。
晶の両手が、私の両腕をつかむ。長い長い、キスをした。
唇を離す。薄明かりの中で、晶は何が起こったのかわからない、という顔をしていた。
「松井さん・・・・・?」
私は、表情を消した顔で言った。
「こういう事がしたいわけでしょう?」
「え・・・・?」
「いつもこういう事を考えてるんでしょう?一回すればある程度気が済むんなら、それでいいからさっさと終わらせましょ。そこにホテルがあるわ。」
しばらくの沈黙の後、やっと言葉の意味が理解できたと言う風に、晶が叫んだ。
「な、何言ってんだ?!そりゃ、確かに考えてるよ!考えてるけど・・・バカにすんな!俺はサルじゃねえんだ!そういう事じゃないんだ!」
興奮して言い終わって、肩で息をしながら、目には涙が浮かんでいた。
一番面倒なパターンだった。
「幻滅したでしょ。店まで送るわ。」
翌日から、晶は私に話し掛けて来なくなった。なるべく目も合わせようとしない。それでもすねた様子とか嫌悪する様子は見せず、同じ会話の輪に入ってしまった時には普通に笑って話をしたし、必要な仕事の伝達もきちんとした。傍目には何があったかなんて全く分からないだろう。
出来た子だな、と思う。こんな状況になって、今まで知らなかったこの子の健気な一面を見て、前よりもこの子を好きにはなった。
背も高くて顔も悪くはない。一途で仕事もまあまあできる。
年下過ぎる事を除けば一体どこが不満なのか、と訊かれても困るのだけど
こういうのは理屈じゃないのだ。
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