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「え?豊?何?」
「あの、松井さん、話があるんですけど、ちょっと時間とってもらっていいですか?」
僕は仕事から上がる時に、僕より上がりの遅い松井さんに声をかけた。
「待ってますから。」
松井さんは少しの間僕の顔をじっと見た。僕を見上げ気味に視線を上げると、ぱっちりした目がさらに大きく見えて、その光の強さに、何も後ろめたい事はないのに僕は少したじろいでしまう。
彼女は黙ってポケットから車のキーを出して僕に渡しながら仕事の流れに戻った。車で待て、と言う事らしい。
松井さんはお客に駐車場を空けるために週末や祝日はバイク、他の日は天気や気分や服装によって、車だったりバイクだったりする。今日は平日で、車だったようだ。
僕は駐車場に行って、松井さんの車の運転席に座った。松井さんに合わせてシートは限界まで前に出ていて、すごく狭くて、改めて松井さんの小ささを実感して、思わず笑ってしまった。
一時間経って、松井さんが来た。僕はその姿を見て、シートから少しずり落ちた。生成りの生地の、木綿の、ものすごくたくさんフリルのついたワンピースを着ていたのだ。
普段の格好とギャップがありすぎるし、ちょっと日常生活でありえないような乙女な姿なのだが、似合っているところがまたすごい。
「何であんたが運転席にいるのよ。」
「男の子は座ってみたいもんなんです。僕誕生日早いからもう免許あるんだけど、自分の車ってまだないから。」
「運転してみたい?」
「そりゃもちろん。いいんですか?」
「今日は出かけるつもりじゃなかったからこんなカッコなんで、お店とか行けないけど、海でも行く?あんたは自転車?後ろにサイクルキャリアーがついてるから、載せて行けばそのまま家に送って行けるわ。走りながら話しましょ。」
助手席でシートベルトをしながら松井さんが言った。
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