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海に着いて、一緒に砂浜に下りて行った。丸みを欠け始めた月が海に道を作っていた。
松井さんは靴を脱いで裸足で歩いていて、白いワンピースが夜の中に浮いて、海風がスカートをなびかせた。
制服のワンピースも襟ぐりが大きくあいた、カントリー調のかわいいデザインなのだけど、仕事中の松井さんは髪を後ろにきゅっと結んで、笑顔で接客していてもピシッと背筋が伸びていて、何か厳しい雰囲気がある。
だけど仕事を離れて、肩までのふわふわのパーマがかかった髪をなびかせてそんな服を着ていると、松井さんはまるで天使かアンティークドールのようだった。腕のGショックを除けば、月の海を裸足で歩く姿が、なんだかとても絵になっていた。
しかしその天使の口から語られた物語は過激で、絵とのギャップに僕はくらくらした。
この人は、天使の顔をした悪魔だ。
僕の脳裏に、タバコを持って
「来いよ、抱いてやるよ」と言うプレイボーイと、
今の松井さんのような姿の乙女が
「こんなのイヤ!」と泣き出す姿が浮かんだ。
・・・・・男女が逆なんだけど・・・・・
「そ・・・・そんな事言ったんですか。」
「う~ん、どうすりゃよかったのかねぇ。」
適当な場所で松井さんは流木に腰掛けて海を眺め、僕は月を背に立った。
「すごく年下だから、どうせそんな度胸のない子供だと思って、バカにしてるんですか?それとも、晶がそれでいいって言ったら、ホントにホテルに行く気だったんですか?好きだって言われたら、誰とでもできちゃうんですか?」
「いくらなんでも誰とでも、って事はないけど、少なくとも晶に生理的な嫌悪感はないし、あの子が真剣だったから、私も真剣に答えただけよ。晶の望む形ではないけど、晶の事は、好きよ。だから、私にできる限りの答えをあげたかったのよ。それがどんなものであれ、嘘いつわりのない本当の答えをもらえたという手応えがあれば・・・一度でも、想いを遂げられたという何かを残せれば、いつまでも気持ちを引きずらずに済むと思ったのよ。」
天使はそう言って、タバコに火をつけようとした。
僕はそのタバコを取り上げた。
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