天使と海へ

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「ちょっと、何すんのよ。」 「女の人はタバコ吸っちゃダメ!」 僕は眉間にしわを寄せて、精一杯冷たい顔を作って言った。 「とっくに二十歳過ぎてんのよ。」 「女の人は子供産まなきゃいけないんだから、吸わない方がいいです。松井さん 普段から血色の悪い顔色だし」 「大丈夫よ。あたし子供産まないから。」 と言いながら新しいタバコに火をつけようとした。僕はまたそれを取り上げた。 「何でそんな事決め付けてんです。将来の事なんてわかんないでしょ。」 「あんたに関係ないでしょう?」 「ダメです。絵的にも似合わない。」 「・・・・・・」 その時松井さんが、何かに気付いた、と言う顔になった。 「・・・あんたもしかして、仕事中に絵の事考えてた?」 「え?ああ、ずーっと考えてるわけじゃないけど、洗い場はあんまり頭使わないんで、ボーっと手を動かしてると色々イメージが来る事もあって。」 「・・・・それでか。」 頬杖をついてやれやれという顔で松井さんが言った。 「何がですか?」 「あんたが仕事トロいの。」 「そんなにトロいですか?やっぱり・・・・」 「うん。」 「・・・・・・・・・」 まてよ。今度は僕の方が何かに気付いた。 「どうしてそういう風に思ったんです?僕が絵の事考えてたって」 結局松井さんはタバコに火をつけて、ゆっくり吸って、ふーっと吐いて、表情のない顔で、遠い、水平線の方を見ながら言った。 「・・・私も昔、描いてたからよ。」 なんとなく、僕がなぜ松井さんに魅かれていたのか解った気がした。 「・・・・今は描いてないんですか?」 松井さんは、うっ、と苦痛に耐えるような表情になって、答えた。 「・・・・・・・描けなくなった。その事については、あまり話したくない。」 「・・・・じゃあ訊きません。」 ぷつりと会話が切れた。
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