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「絵を描く友達はいるの?」
松井さんが訊いた。
「僕、絵画教室に行ってるんで」
とり上げたタバコを返しながら僕は答えた。
「それでバイトもしてるの?忙しすぎない?」
「バイトは、絵画教室の費用を稼ぐためなんです。」
「親が出してくれないの?」
「うち、母子家庭で妹もいるし、自分が好きな事するために使うお金ぐらい自分で稼ぎたいと思って。トロくて迷惑かけてるかもしれないけど。」
松井さんは月明かりに照らされて、普段冷たくあしらわれていた僕が見た事のないやさしい表情になって言った。
「・・・・ふうん、えらいじゃん。」
そして、タバコを消した。
「あの、もしかして私の顔色の事毎回毎回突っかかってきてたのも・・・」
「ああ、松井さん顔の作りがきれいだから絵にするなら肌の色はこうで唇の色はこうで、って考えちゃって、頭の中で一回絵が出来ちゃうと現実の松井さん見ると描きかけの絵を見てるみたいでつい・・・・」
「・・・・・なるほどね。」
はあ~~、と、ため息をつきながら言った。
車に戻って松井さんに運転を代わって、家まで送ってもらった。車の中でも結局晶の話なんてほとんどしないで、絵の話ばかりしてしまった。
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