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その日の松井さんは一段と顔色が悪く、明らかに具合が悪そうだった。それでも気を張って仕事をしてはいたけど、洗い場に下げて来た食器を投げ出すように置いた一瞬、ふーーっと大きく息を吐いて朦朧とした目をする。少し間をおいて意を決したように後ろを向くと、しゃきしゃきと歩いて行く。
「大丈夫?」なんて言葉にして訊いたら大丈夫じゃない事を自覚して崩れ落ちそうで、いつものように「顔色悪い」なんて声もかけられない雰囲気だった。
晶もなんだか心配そうで、配膳の順番的に松井さんに重い物が当たってしまったら、さりげなく横取りしたりしてフォローしていた。こてんぱんに振られちゃってるのに、健気で見ていてこっちが苦しくなる。
僕は9時で上がりで、タイムカードを押しに行ったら松井さんも上がりのようだった。
「お疲れ様です。お先に」と声をかけてタイムカードを押した。
「お、お疲れ・・・・」
松井さんはか細い声で答えて、青い顔でぐらぐらしながら朦朧とした目を泳がせて自分のタイムカードを探しているようだった。
「どうぞ。」僕は彼女のカードを取って渡した。
「・・・ありがと・・・」
受け取ったその手でそのままガッチャンと打刻して、松井さんは床にへたり込んでしまった。僕は彼女のカードをタイムレコーダーから抜いて元に戻し、かがみこんで顔を見た。
眉をひそめて苦悶の表情で、きめの細かい肌が汗で湿って、後れ毛が肌に張り付いて、僕は不謹慎にもきれいだなぁ・・・と思ってしまった。
「松井さん大丈夫ですか?休憩室で休みます?歩ける?」
僕は松井さんの腕を自分の肩に回して、背中を支えて立ち上がらせた。彼女は僕に遠慮なく体重を預けているようだったけど、僕にはとても軽く感じられた。休憩室の長いソファーに彼女を座らせると上半身が背もたれからずずずと落ちて、おなかを抱える格好で横になった。
(アレかぁ・・・女の人って、大変だなぁ。)
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