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しばらくして、ドアを開ける音がした。入って来た時僕は確か鍵を閉めたはず、と思ったら、「凛、大丈夫か?」と言いながら入って来た男の手には鍵があった。
(ああ、恋人か。松井さん、彼氏いないなんて言って、ホントはちゃんといるんじゃん)
彼は三十ぐらいのいかにも落ち着いた大人の男、と言う感じの穏やかで柔らかい雰囲気の人だった。
「君は?」
電話で松井さんは僕の事を何も言ってなかった。
「職場で具合が悪くなって、同じ時間に上がったこの子が運転して送ってくれたの。義人(よしと)、悪いけどこの子を送ってあげて。」
「え、いや、僕はいいですよ。いつもバイト終わって自転車で帰ってるし」
義人と呼ばれた男が時計を見た。
「しかしそれからずいぶん経ってるんだろう?君高校生?補導とかされたくないだろう。送ってくよ。」
「私の車にこの子の自転車がかかってるから。」
「わかった。」
と言いながら、男は松井さんのベッドのヘリに座り、身をかがめておでこを合わせた。
「熱はないな。」
「大丈夫よ。いつものだから。」
男が、優しく彼女の髪と頬をなでている。僕がいなきゃ絶対キスしてる。気を利かせて後ろを向いた方がいいのだろうけど、あまりにやさしい画で、目が離せない。
彼は勝手知ったる様子でキャビネットから薬を出して、流しから水を汲んで来て松井さんに飲ませて言った。
「じゃあ、行って来るよ。欲しい物はある?ついでに買って来る。」
「じゃあ何か、食べる物、お願い。」
男が振り向いた。
「キーは君が持ってる?」
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